M&A仲介決算の比較を、最新の四半期でアップデートする。2026年7月30日、日本M&Aセンターホールディングス(2127)の2027年3月期第1四半期と、ストライクグループ(6196)の2026年9月期第3四半期が同日に開示された。前回(4月末)は保守着地の日本M&Aセンターと計画未達のストライクという対照を描いたが、3ヶ月で状況は動いた。
結論から言えば、両社の決算の中身は明暗が分かれたが、株価はそろって売られた。本稿では日本M&Aセンターとストライクの決算と株価を比較し、その理由を増益の質・進捗率・市場の織り込みという3つの視点から解きほぐす。
※本記事は投資推奨ではありません。投資判断はご自身の責任においてお願いいたします。
M&A仲介大手2社の決算内容:日本M&Aセンターとストライクの比較表
まず両社の最新実績を並べる。決算期が異なる(日本M&Aセンターは3月期の第1四半期、ストライクは9月期の第3四半期)ため、進捗の段階も開示区分も揃わない。特にストライクは当第3四半期より連結決算へ移行しており、前年同期比は会社側が公式には開示していない
以下の前年比は前年単体実績を参考値として対比したものである。前回記事の項目立てを引き継ぎ、各社のポジティブ・ネガティブの特徴と7月31日終値時点の市場評価を加えた。
| 項目 | 日本M&Aセンター (2127) | ストライク (6196) |
| 決算区分 | 2027年3月期 1Q (累計=単体3ヶ月) | 2026年9月期 3Q累計 (連結初年度・9ヶ月) |
| 売上高 | 91.0億円 (前年同期比+0.9%) | 160.0億円 (参考:前年比+10.8%) |
| 営業利益 | 23.4億円 (同▲6.4%) | 51.2億円 (参考:+24.7%) |
| 経常利益 | 22.5億円 (同▲11.1%) | 51.1億円 (参考:+24.6%) |
| 純利益 | 20.3億円(+33.8%) ※特別益込み | 34.1億円 (参考:+19.4%) |
| 1株当たり配当 | 29円(前期比±0円) | 65円(分割後・下限保証) 配当性向73.2% |
| 通期進捗率(経常) | 11.7% (4Q偏重を考慮しても低い) | 69.6% (前年同時点を上回る) |
| ポジティブ材料 | ・単価+13.4%、大型案件+35.7% ・新規受託+20.1%と先行good ・ファンド事業J-Capital始動 ・北米Generational社と提携 | ・3Q単体で営業利益+45% ・営業利益率32%へ改善 ・47都道府県税理士提携完了 ・大型案件39組へ増加 |
| ネガティブ材料 | ・本業(経常)は▲11.1%減益 ・純利益増は一時益に依存 ・IT/広告の先行費用が重し ・成約件数▲11.3% | ・生産性は27年9月期まで低下 ・原価率上昇を会社が予告 ・大型案件依存で期ズレ懸念 ・信用買い残が需給の重し |
| 組織課題 | 若手コンサルの定着 (第2創業で育成強化中) | 新卒比率上昇の戦力化 (生産性低下の予告局面) |
| 市場評価(PER連結) | 15.1倍 (前回14.6倍) | 15.2倍 (前回14.7倍) |
| PBR / 配当利回り | 4.25倍 / 4.54% | 3.54倍 / 4.92% |
| 7/31 株価反応 | 637.6円 前日比▲9.14% (前日終値701.8円) | 1,322円 前日比▲4.68% (前日終値1,387円) |
注:両社2026年7月30日開示の決算短信・決算説明資料より筆者作成。ストライクは連結初年度のため前年同期比は参考値。決算期・開示段階が異なるため単純な優劣比較ではなく段階差を踏まえて読まれたい。
表が示す事実は3つある。第一に、利益の方向は両社で分かれた。日本M&Aセンターは本業(経常)が減益、ストライクは参考値ながら大幅増益である。第二に、それにもかかわらず株価は両社とも7月31日に急落した。日本M&Aセンターは9.14%安、ストライクも4.68%安。決算の中身の良し悪しと株価の反応は必ずしも一致しない。
第三に、両社のPER(連結)はともに約15倍で並んだ。前回(14.6倍・14.7倍)から大きく変わらず、市場は両社を同水準の評価に置いている。以下、なぜ好決算のストライクまで売られたのかを含め、個社ごとに深掘りする。
日本M&Aセンターの深掘り:増益の質という論点
実績数値の見出しは『純利益33.8%増』である。だが株価が9%超も下げた理由は、その増益の中身と、本業の減益にある。以下、ポジティブ材料とネガティブ材料を分けて論じる。
ポジティブ:単価戦略とファンド事業という新しい収益軸
日本M&Aセンターの決算で評価できる点は、大きく2つに整理できる。1つは成約の量から質への転換が数字で確認できること、もう1つはファンド事業という新たな収益源が立ち上がったことである。以下、それぞれを具体的な数値とともに見ていく。
◆ 成約件数を絞り単価を上げる戦略は、先行指標で機能している
成約件数は188件と前年同期比11.3%減少した。だが会社はこれを質重視への意図的な絞り込みと説明し、その主張は実数と方向が一致している。
新規売り受託件数は347件(同20.1%増)、うちミッドキャップ案件は76件(同31.0%増)、成功報酬1億円以上の大型案件成約は19組(同35.7%増)といずれも伸びた。1件当たりM&A売上高も46.3百万円(同13.4%増)へ上昇。件数を追わず単価を取りにいく転換は、先行指標のレベルで奏功している。
◆ 純利益を押し上げたファンド事業J-Capitalの始動
純利益を押し上げたのは、2026年4月に設立したファンド事業統括会社『J-Capital』を通じた投資案件の売却益787百万円である。従来の仲介手数料はレーマン方式で単価に上限がかかるフロー型だが、自らリスクマネーを投じて企業価値を高めてから売却するプリンシパル投資は、成約手数料とは性質の異なるキャピタルゲイン型の収益をもたらす。
仲介一本足からの脱却を図る布石であり、成功すれば中長期のEPS向上に効く。一方でこの売却益は毎期発生する保証がなく、当四半期の増益をこれに依存する形は収益の安定性という点で両義的でもある。
◆ 上場支援・北米提携――案件を囲い込む三位一体戦略
多角化はファンドに留まらない。対象期間にはTOKYO PRO Market(TPM)への上場支援が加速し(5月のFFFホールディングス、6月の不二興産など)、北米ミッドキャップに強い米国Generational Groupとの提携も締結した。
上場支援は単発の手数料に留まらず、対象企業の財務内容を深く把握する接点となる。その関係を通じて、将来その企業が大型M&Aに動く際に独占的アドバイザーへ指名される確率を高め。案件を自社エコシステムに囲い込むソーシング戦略である(業界全体の潮流は後で詳述する)。
ネガティブ:本業は減益、先行投資の回収時期は未開示
一方で、株価が9%超も下げた理由はネガティブ材料にある。純利益の増加という見出しの裏で本業は縮み、その先行投資がいつ実を結ぶのかは開示されていない。
会社側の説明と筆者の見立てを分けながら、市場が嫌気した中身を掘り下げる。
◆ 純利益+33.8%の実体は一時要因。稼ぐ力は前年割れ
会社側の説明:経常減益はIT関連費用など先行投資によるもので、純利益は増益を確保した――というのが開示のトーンである。
筆者の見立て:純利益2,027百万円(前年同期比33.8%増)の押し上げは、特別利益903百万円(AtoG Capital関連787+バトンズIPO関連114)による。
これを除いた本業ベースの純利益は概算約1,575百万円、前年同期比3.9%増の微増にとどまる。営業利益6.4%減、経常利益11.1%減であり、本業の利益は明確に縮んでいる。増益決算の見出しの内側で、稼ぐ力そのものは前年を下回った。市場が翌日9.14%安で反応したのは、この中身を見抜いたためと解釈できる。
◆ 先行投資はいつ回収されるのか――未開示の空白
減益の直接要因は販管費の9.5%増である。内訳ではIT関連費用が314百万円(前年同期比22.5%増)、広告宣伝費が259百万円(同62.5%増)と伸びた。会社はこれを高度化に不可欠なインフラ投資と位置づけ、投資自体の妥当性は否定しない。
だが、この費用が売上や1人当たり生産性の向上にいつ・どの程度つながるのかは数字で示されていない。先行費用が確実に利益を削るなか、市場が『回収の時間軸が見えない』と受け止めるのは自然である。言葉で語る領域を実数の裏づけへ移せるかが宿題だ。
◆ 競合M&Aキャピタルの絶好調が突きつける相対比較
追い打ちをかけたのが、同日引け後に競合M&Aキャピタルパートナーズ(6080)が発表した好決算である。連結最終利益は前年同期比43.7%増の62億円、通期予想を72.3億円から76.7億円へ上方修正し、期末配当も大幅増額とした。
同じM&A仲介大手でありながら、高単価路線を享受する競合が利益率拡大を謳歌する一方、過渡期の固定費増を抱える日本M&Aセンターの見劣りが鮮明になった。投資家にとって両社は乗り換え可能な選択肢であり、業績で明確に上回る競合へ資金が向かう相対的な流出圧力が、7月31日の急落にも影響したとみられる。
ストライクの深掘り:『失速』評価の再検証
前回記事では、ストライクを『中間業績を下方修正し、成約進捗が遅い』と評した。だが3Qの数字を精査すると、その評価は修正を要する。決算の中身は好調である。それでも株価は6.34%下げた。この2つを分けて論じる。
ポジティブ:3Q単体で表れた収益性の急改善
ストライクの決算は、前回記事の懸念を覆す内容だった。累計値だけを見ると連結移行で分かりにくいが、四半期単体に分解すると収益性の急改善が浮かび上がる。
進捗率も前年同時点と比べれば前進しており、ソーシング基盤の強化も進んだ。ポジティブ材料を順に確認する
◆ 四半期単体で見ると営業利益は前年同期比45%増
累計値では連結移行の影響で前年比較が読みにくいため、四半期単体(4~6月)に分解する。累計から中間期を差し引くと、当3Q単体の売上高は6,266百万円、営業利益は2,426百万円。
前年同期の単体(売上5,490百万円、営業1,671百万円)と比べ、売上14.1%増、営業利益45.2%増である。営業利益率は前年同期の30.4%から38.7%へ大きく改善した。前回記事で懸念材料とした収益性は、足元で明確に上向いている。
◆ 進捗率は前年同時点と比べて初めて意味を持つ
前回の『進捗が遅い』という評価を、前年同時点と突き合わせて再検証する。売上進捗は前年3Q時点の64.8%から当年71.1%へ、成約組数は61.9%から69.3%へ、いずれも前年同時点を上回る。
しかも比較対象の前年(2025年9月期)は、通期計画22,300百万円に対し20,314百万円=91.1%で着地が未達に終わった年である。その前年より進捗が良いという事実は、『進捗が遅い』という前回評価が是正されることを意味する。7割弱は最終四半期に3割強を残す構造で楽観はできないが、前年より確実に前進している。
◆ ソーシング基盤の完成――47都道府県の税理士網
収益性改善を支える基盤も強化された。7月14日には北陸税理士協同組合連合会との提携により、全国47都道府県の税理士団体との連携が完成した。中堅・中小企業経営者にとって最大の相談相手は顧問税理士である。
その税理士をファースト・レスポンダーとして案件を吸い上げる紹介網は、不適切営業への規制が強まるなか、プル型で良質案件を獲得する強固な参入障壁となる。新規参入者が一朝一夕には築けない全国網であり、成約の遅行と受託の先行が積み上がる今、このソーシング基盤の厚みが将来の成約数を支える。
◆ 新市場への布石――SMART刷新とスタートアップM&A
デジタル戦略も進む。国内初のマッチング市場『SMART』を7月に全面リニューアルし、買い手のリテラシー向上を通じて成約までのリードタイム短縮を図る。加えて代表の荒井氏が経済産業省『スタートアップM&Aガイダンス』策定の有識者検討会委員に参画するなど、事業承継に留まらない新市場への布石も打つ。
従来の親族外承継は経営者の高齢化という人口動態に依存するが、スタートアップのイグジット型M&Aはオープンイノベーションという別の需要曲線を持つ。人口動態依存の需要に、成長分野の需要を上乗せする多層化の動きである。
ネガティブ:好決算でも売られた理由――織り込みと需給
決算が好調でも、ストライク株は7月31日に売られた。これは事業の問題ではなく、株価の位置と需給の問題である。会社が自ら予告する生産性の低下局面という論点に加え、なぜ好決算が株価下落につながったのかを、織り込みと信用需給の2つの観点から解き明かす。
◆ 会社自身が予告する生産性の低下局面
会社側の説明:新卒比率を高める方針で、2027年9月期までは生産性が若干低下する見通しと会社は明示している。固定給相当・紹介料相当の原価率上昇も見込むとする。
筆者の見立て:これは定量で反証する開示ではなく、リスクの自認である。ただし現状の3Q単体営業利益率38.7%という高水準は、この『今後緩やかに低下する』予告と矛盾しない。今が高く、これから原価率が上がるという順序で整合している。現時点で強い弱気材料と断じるのは行き過ぎだが、低下が予告の範囲に収まるかは次期以降の確認事項だ。
◆ 理由その1――好決算は高値圏ですでに織り込まれていた
決算が好調でも株価が4.68%下げた背景は2つある。第一に、織り込み済みである。ストライク株は決算発表前の3営業日で1,341円→1,359円→1,387円と期待先行で上昇していた。年初来高値1,524円(4/16)に対し発表前日は1,387円と高値圏にあり、好決算はすでに株価に相当程度織り込まれていた。
株価は将来の期待を先に織り込む性質を持つため、良い数字が実際に出た時点では、その期待が現実になったに過ぎず、新規の買い材料としては弱い。期待で買われた株が事実の確認とともに利益確定売りを浴びる、典型的な材料出尽くしのパターンとなった。
◆ 理由その2――信用買い残という需給の重し
第二に、信用需給の重しである。証券金融の速報値(7月31日時点)によれば、ストライクの信用買い残(融資)は約500千株と、信用売り残(貸株)9千株を大きく上回る。回転日数も37日前後と長い。
積み上がった買い残は将来の戻り売り圧力となり、上値を抑える。日本M&Aセンターの信用買い残(約105千株)と比べると、時価総額はストライクが約4分の1でありながら、買い残の絶対量はむしろ多い。数値は確報で修正される可能性があるが、ストライクの買い残が相対的に厚いという方向性は明らかである。
決算の中身が良くても、高値圏で買い残が積み上がった銘柄は売られやすい。これが『好決算・株価下落』の実相であり、事業の問題ではなく株価の位置と需給の問題である。
M&A仲介業界が描く2026年以降の構造変化
M&A仲介業界は今、収益モデルの転換点にある。両社の決算を個社の話に閉じず、業界全体の3つの構造変化のなかに置いて捉えたい。この変化が、両社の戦略の巧拙を測る物差しになる。
脱・仲介――アドバイザリーへの高度化
従来のマッチング完結型モデルから、成約後の統合支援(PMI)や上場支援を含む総合サービスへの脱皮が進む。ストライクの持株会社移行と連結決算採用、日本M&AセンターのJ-Capital・TPM上場支援は、いずれも仲介手数料以外の収益源を確保する動きだ。
背景には、仲介がレーマン方式で単価に上限を持つフロービジネスだという構造的制約がある。中小M&Aガイドラインの厳格化で単なる紹介業の付加価値が問われるなか、財務・税務アドバイザリーやプリンシパル投資の機能を厚くできた企業が、次の成長ステージへ進む。仲介の先にある総合M&Aプラットフォーマーへの進化競争が始まっている。
大型案件シフト――単価上昇とボラティリティの両面
1案件あたりの手数料が1億円を超えるミッドキャップ案件の争奪が激化している。両社とも大型案件を伸ばし(日本M&Aセンター+35.7%、ストライク39組)、単価上昇で収益を押し上げた。
半面、上場企業の買い手増加とデューデリジェンスの厳格化で、最終契約からクロージングまでの期間は長期化している。大型案件依存は、単価という強みと四半期業績の振れという弱みを同時にもたらす。今回のストライクの進捗の振れは、その典型である。
クロスボーダーとAI――次の成長ドライバー
国内の親族内承継型M&Aが頭打ちとなるなか、次の成長軸は海外とテクノロジーにある。日本M&Aセンターは北米に強い米国Generational Groupとの提携でクロスボーダーを強化し、国内中小企業と海外の買い手を結ぶ新たな案件領域を開拓する。
両社ともAIによるマッチング精度向上と商談解析で、コンサルタント個人の力量に依存する属人性からの脱却を図る。M&A仲介はコンサルタント数×生産性で売上が決まる労働集約モデルであり、増員には限界がある。AIが1人当たり生産性を底上げできるかは、人的資本の壁を越えてセクターが次の成長を掴めるかの分岐点となる。
M&A仲介2社の4軸クロス比較と株価評価
時間軸:四半期単体で見る収益性の方向
累計値は季節性や一時要因を均してしまうため、四半期単体(3ヶ月)で並べる。日本M&Aセンターの1Qは累計=単体である。
| 四半期単体(3ヶ月) | 売上高 | 営業利益 | 営業利益率 |
| M&Aセンター 前年1Q | 9,018 | 2,509 | 27.8% |
| M&Aセンター 当年1Q | 9,104 | 2,349 | 25.8% |
| ストライク 前年3Q単体 | 5,490 | 1,671 | 30.4% |
| ストライク 当年3Q単体 | 6,266 | 2,426 | 38.7% |
注:両社決算短信・説明資料より筆者作成(累計値からの差分計算を含む)。ストライク当年3Q単体は連結、前年3Q単体は単体参考値のため利益率トレンドの把握を主目的とする。
方向は明快である。日本M&Aセンターの営業利益率は前年1Qの27.8%から当1Qの25.8%へ低下し、ストライクは前年3Q単体の30.4%から当3Q単体の38.7%へ上昇した。前回記事の時点では両社とも収益性に懸念があったが、四半期単体で追うと足元の勢いは逆を向いている。
累計値では連結移行や一時要因に埋もれて見えないこの差が、単体分解によって鮮明になる。ストライクは直近3ヶ月で最も収益性が高い四半期を、日本M&Aセンターは先行費用の重みで最も低い四半期を記録した。
横軸:共通KPIで見る収益ドライバー
| 共通KPI | 日本M&Aセンター (当1Q) | ストライク (当3Q累計) |
| 成約(件数/組数) | 188件(前年比▲11.3%) | 212組・408件(進捗69.3%) |
| 大型案件(1億円超) | 19組(前年比+35.7%) | 39組(前年33組) |
| 新規受託 | 347件(前年比+20.1%) | 927件(進捗73.0%) |
| 1件/組当たり単価 | 46.3百万円(+13.4%) | 75.4百万円(前年75.2) |
| 営業利益率(累計) | 25.8% | 32.0% |
出典:両社決算資料より筆者作成。単価の定義は両社で異なる(M&Aセンターは1件当たりM&A売上高、ストライクは1組当たり売上)ため水準の直接比較は避け、各社の前年比の方向で読む。
件数から単価へという業界シフトは両社共通だが、違いは利益への落ち方にある。両社とも大型案件・新規受託・単価が伸び、収益ドライバーの方向は一致する。分かれるのは売上高利益率(マージン)だ。
ストライクは単価上昇がそのまま利益率改善(32.0%)に直結したのに対し、日本M&Aセンターは同じ単価上昇(+13.4%)を先行費用が相殺し、利益率は25.8%へ低下した。両社のROEの差を生んでいるのは資産回転率でも財務レバレッジでもなく、マージンの一点である。KPIの伸びが利益に変換される効率で明暗が分かれた。
期待軸・需給軸:市場は両社をどう評価しているか
| 市場評価(7/31) | 日本M&Aセンター | ストライク |
| PER(連結) | 15.1倍 | 15.2倍 |
| PBR / ROE | 4.25倍 / 25.65% | 3.54倍 / 23.63% |
| 配当利回り | 4.54% | 4.92% |
| 信用買残/回転日数 | 買残 約105千株 (回転4.3日・速報) | 買残 約500千株 (回転37日・速報/重し) |
| 7/31株価反応 | ▲9.14%(637.6円) | ▲4.68%(1,322円) |
注:信用買い残は証券金融の速報値で、確報で修正される場合がある。
両社のPERは約15倍で並び、前回から据え置き圏にある。市場はM&A仲介セクターに成長株プレミアムを与えず、利回り株に近い評価を続けている。ただし下落の質は異なる。
日本M&Aセンターは本業減益というファンダメンタルズ要因で、ストライクは決算好調ながら高値圏の織り込みと信用買い残という需給要因で売られた。前者は中身、後者は位置の問題である。
M&A仲介の決算に関するQ&A
ここまでの分析を踏まえ、M&A仲介2社の決算について読者が抱きやすい疑問を、5つのQ&A形式で整理する。好決算でも株価が下がった理由や、両社のPERが並んだ意味など、本文の要点を問答の形で確認できるようにまとめた。
Q1. なぜ好決算のストライクまで株価が下がったのか?
2つの理由がある。第一に織り込み済みである。ストライク株は決算発表前の3営業日で1,387円まで期待先行で上昇し、好決算は株価に相当程度織り込まれていた。第二に信用需給の重しである。
信用買い残(速報値で約500千株)が、時価総額が約4倍の日本M&Aセンター(約105千株)より多く、材料が出た局面での戻り売り圧力が強い。
確報で数値は動きうるが、買い残が厚い方向性は変わらない。決算の中身が良くても、高値圏で買い残が積み上がった銘柄は出尽くしで売られやすい。
Q2. 日本M&Aセンターの純利益33.8%増は評価できないのか?
額面通りには評価しにくい。増益の主因はファンド事業の売却益787百万円という一時要因であり、本業の経常利益は11.1%の減益だからである。一時要因を除いた本業ベースの純利益は3.9%増の微増にとどまる
。ファンド事業という新しい収益軸の立ち上がり自体は中長期の布石として意味があるが、当四半期の『増益』を本業の好調と読むのは誤りである。
Q3. 両社のPERが約15倍で並んだのは何を意味するのか?
市場がM&A仲介セクターに与える評価が、成長株から利回り株へと変質していることを示している。前回記事の時点(14.6倍・14.7倍)から3ヶ月が経ってもほぼ同水準であり、かつての成長倍率(PER30倍超)には遠い。事業の質や成長率に差があっても、セクター全体が『成約の確実性が不透明』というディスカウントを受けている構図が続いている。
Q4. 成約サイクルの長期化は、両社に同じように響くのか?
日本M&Aセンターは規模が大きく、質転換の過程で成約件数の減少という形で影響が表れやすい。当1Qの成約件数▲11.3%は、その典型である。一方ストライクは、規制強化がむしろ紹介中心の良質案件への追い風となる。
顧問税理士を起点とするプル型ソーシングは、不適切営業への規制が強まるほど相対優位が増すためだ。ただし大型案件シフトの裏側で、クロージングまでの期ズレによる四半期業績の振れ幅は拡大する。
同じマクロ変化が、日本M&Aセンターには件数の圧力、ストライクには単価とボラティリティの両面として現れる。
Q5. 今後、両社で注目すべき指標は何か?
日本M&Aセンターは経常利益(四半期単体)が先行費用を吸収して増益に転じるか、IT費用が1件当たり売上の向上に転化するかが焦点だ。純利益ではなく経常段階で本業の回復を見極めたい。
ストライクは営業利益率が会社予告の範囲で緩やかに低下するか、第4四半期のクロージングで通期計画(成約組数進捗69.3%からの着地)を達成できるかである。加えて、上方修正を出した競合M&Aキャピタル(6080)へセクター内の資金がどこまで集中するかも、両社の相対株価を左右する。個別指標の詳細は本記事末尾にまとめた。
M&A仲介2社の投資評価:筆者の見解
ここからはM&A仲介2社について、筆者の見解を述べる。以下は主観を含む評価である。結論を先に言えば、7月31日に両社そろって売られたにもかかわらず、事業の先行きは両社とも前向きに評価できる。
セクター観のアップデート:短期の弱さから中期の明るさへ
前回、筆者はM&A仲介セクターを『短期ネガティブ・中長期ポジティブ』と総括した。今回の2社を突き合わせて、この見方はより確信に近づいた。7月31日にそろって売られたのは事実だが、その下落は事業の悪化を映したものではない。
決算の中身と株価の反応を切り分ければ、次の四半期以降に向けた明るい材料の方が多い。
むしろ重要なのは、前回まで『セクター全体が嫌気されている』という一括りの見方が通用したのに対し、今回は個社ごとに事情が分岐した点だ。市場が両社を同じPERで括っている今こそ、中身の差を見極める好機である。
日本M&Aセンター:先行指標が示す下期回復の芽
日本M&Aセンターは、先行指標がはっきり上向いている。新規売り受託は前年同期比20.1%増、ミッドキャップ案件は31.0%増、大型案件成約は35.7%増、単価も13.4%増。案件の質と規模を取りにいく戦略は、成約に至る手前の段階で確実に積み上がっている。
M&A仲介の成約には半年から1年のリードタイムがあり、この受託の厚みは下期の売上に効く。前年に期初予想を8.5%上回って着地させた保守癖を踏まえれば、通期予想には上振れ余地もある。残る宿題は、IT先行投資が本業の利益回復に転じる時期を数字で示すことだけだ。この一点が確認できれば、再評価の条件は整う。
ストライク:事業は前向き、株価は需給調整の局面
ストライクは、事業の勢いという点で明確に前向きである。前回の『失速』評価は撤回する。3Q単体の営業利益率38.7%、前年同時点を上回る進捗、新規受託927件、47都道府県の税理士網の完成と足腰は一段強くなった。約5%の配当利回りと下限保証は下値を支える。
唯一の留意は事業ではなく需給にある。貸借倍率25.92倍の信用買い残が解けるには時間がかかり、株価の戻りは需給調整を経てからになりやすい。だが事業と需給を分けて見れば、中期の絵は明るい。買い残の整理が進んだところは、むしろ好機となり得る。
※開示:筆者はM&A仲介セクター関連銘柄を投資対象として継続的に分析している。本稿の個別銘柄について特定のポジションを推奨する意図はない。
まとめ:M&A仲介セクター再評価の条件と注視指標
M&A仲介セクターの2026年7月決算をまとめる。7月31日の下落は両社にとって事業の警告ではない。日本M&Aセンターは先行指標の強さが下期回復を示唆し、ストライクは事業の勢いが続く公算が大きい。
M&A仲介という業種の中期の絵は明るい。市場がそろって付けるPER14.8倍は、事業の実力に対しむしろ慎重すぎる可能性がある。下期の数字が先行指標を裏づければ、セクターの再評価は視野に入る。以下、その裏づけとなる指標を挙げる。
次に注視すべき指標
- 日本M&Aセンターの経常利益(四半期単体):先行費用を吸収して増益に転じるか。純利益ではなく経常段階で本業の回復を確認する。
- 日本M&Aセンターの経常利益(四半期単体):先行費用を吸収して増益に転じるか。純利益ではなく経常段階で本業の回復を確認する。
- ストライクの営業利益率の推移:会社が予告した『2027年9月期までの生産性低下』が予告の範囲に収まるか。38.7%(3Q単体)を起点に追う。
- ストライクの第4四半期クロージング:成約組数進捗69.3%からの着地。大型案件の期ズレが通期未達を招くか。
- 競合M&Aキャピタル(6080)との相対:上方修正を出した競合との資金の綱引き。セクター内での選別がどの銘柄に向かうか。
参照
株式会社日本M&Aセンターホールディングス 2027年3月期第1四半期決算短信・決算説明資料/株式会社ストライクグループ 2026年9月期第3四半期決算短信・決算説明資料(いずれも2026年7月30日開示)。株価・PER・PBR・配当利回り・信用需給・時系列は2026年7月31日終了後のデータ。競合はM&Aキャピタルパートナーズ(6080)2026年9月期第3四半期決算より。
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