本記事は、インフォマート(証券コード:2492)の2026年12月期第2四半期決算を扱った本編の付録である。本編では株価を動かす最大の変数としてオアシス・マネジメントの存在に触れたが、その保有推移・要求内容・過去の介入事例の詳細は本編に収まりきらなかった。
ここでは、オアシスがインフォマートに何を求め、過去の介入で株価がどう動いたかを検証し、今後の展開を占う材料を提供する。なお筆者はインフォマート株を保有しており、その前提で公平な評価を試みる。投資判断はご自身の責任でお願いする。

オアシスのインフォマート保有推移|1ヶ月で5.07から7.49%へ
オアシス・マネジメントは、2026年6月下旬から7月にかけて、わずか1ヶ月足らずでインフォマート株を立て続けに買い増した。報告書ベースの保有推移は次のとおりである。
| 報告義務発生日 | 提出日 | 保有株数 | 保有割合 | 動向 |
|---|---|---|---|---|
| 2026/06/25 | 2026/07/02 | 13,568,100株 | 5.07% | 新規大量保有報告 |
| 2026/07/14 | 2026/07/22 | 16,757,200株 | 6.26% | 変更報告書 |
| 2026/07/22 | 2026/07/29 | 20,033,200株 | 7.49% | 変更報告書 |
出典:関東財務局提出の大量保有報告書・変更報告書より筆者作成
特筆すべきは、この買い増しが株価の上昇局面で行われた点である。5.07%判明を受けて株価が急伸したにもかかわらず、オアシスは高値を追う形で機械的に買い進めた。
取得に要した資金は当初分だけで約54億9,000万円、推定平均取得単価は400円前後とされる。株価上昇後も買い増す姿勢は、純投資(値上がり益狙い)の枠を超え、議決権の確保フェーズに入ったことを示唆する。
※2026.08.04 オアシスの保有比率は8.54%と1.05%増加しました。
オアシスがインフォマートに求めるもの|重要提案行為の射程
オアシスは大量保有報告書の保有目的欄で、金融商品取引法施行令に基づく重要提案行為として、既に提案済みの事項と今後12ヶ月以内に提案を予定する事項を具体的に列挙している。
主な内容は次のとおりである。
- 重要な財産の処分(施行令第1項第1号)
- 事業の全部または一部の譲渡・譲受け・休止・廃止(同第7号)
- 代表取締役その他の役員の選任・解任
- 役員構成の重要な変更
- 吸収合併・株式交換などの組織再編
- 株式の上場廃止(非公開化)
- 第三者への支配権の異動(過半数譲渡)
この列挙は、増配や自社株買いといった表面的な株主還元要求の枠を大きく超えている。代表取締役の選解任から非公開化までを射程に収めた内容は、企業の根幹に関わる構造改革を経営陣のテーブルに乗せたものである。
オアシスが狙うのは、180億円超の現預金と88.8%に及ぶ過剰な自己資本比率に象徴される資本効率の低さの是正であり、その手段として経営そのものへの介入を辞さない構えを見せている。
オアシスの過去事例|時価総額が株価反応を分ける
オアシスが今後インフォマートで何を引き出せるかを占ううえで、過去の介入事例が示す法則が参考になる。大量保有判明直後の初動と、その後の帰趨を銘柄ごとに整理すると、時価総額による二極化がはっきり見える。
まず一覧を示す。
| 銘柄 | 分類 | 保有判明後の初動 | 中長期の帰趨 |
|---|---|---|---|
| メルカリ | 大型グロース | 約+6% | コスト削減など決算改善。TOB期待は皆無 |
| 花王 | 超大型ディフェンシブ | 約+5% | 総会敗北後も買い増し継続。M&A余地は極小 |
| コクヨ | 中大型バリュー | 約+15% | 自社株買い・増配への期待 |
| DIC | 中型素材 | 段階買いで下値切り上げ | 保有11.5%まで拡大、経営刷新・資産適正化 |
| フジテック | 中型 | 支配権思惑で堅調 | 9.73%からプロキシファイトで取締役会掌握 |
| 東京ドーム | 中型資産保有 | 短期間で急騰 | 三井不動産のTOBで45%プレミアム |
出典:各社の大量保有報告書・株価データおよび公開報道より筆者作成
表が示すのは、時価総額が大きいほど初動が小さく、非連続なイベント(TOBや経営権移行)が起きにくい。以下、大型と中小型に分けて詳しく見る。
中小型株では大きく動いた事例が並ぶ
時価総額が数千億円以下の中小型株では、オアシスの介入が株価上昇や経営権移行に結びついた例が目立つ。
コクヨでは初動で約15%急騰し、PBR改善余地から自社株買いや増配への期待が瞬時に織り込まれた。DICでは保有を約11.5%まで引き上げ、特設サイトで経営刷新と非中核資産の適正化を迫った。
フジテックでは9.73%を握って社長の権限濫用を告発し、プロキシファイトで取締役会を掌握した。東京ドームでは経営改善要求が引き金となり三井不動産によるTOBを誘発した。
いずれも大量保有の判明は序章にすぎず、議決権を固めたうえで決定的なアクションをぶつける共通パターンをたどる。
大型株では反応が限定的だった
一方、時価総額が数兆円規模の超大型株では、様相が異なる。
花王への介入では、キャンペーンを張っても株価の反応は限定的だった。時価総額が大きいほど、アクティビストが握れる議決権の比率は下がり、経営を動かす影響力も相対的に小さくなる。
市場も、大型株では非連続なイベント(TOBや経営権移行)が起きにくいと冷静に見るため、初動の思惑買いも限られる。
流動性の高い大型グロース株のメルカリでは、大量保有判明後の初動は一桁台前半の上昇にとどまり、その後の株価上昇はイベントではなく決算数値の改善によってもたらされた。
インフォマートは「動いた側」の規模帯に収まる
インフォマートの時価総額は約1,522億円.
コクヨやDIC、フジテック、東京ドームなど株価が動いた中小型株の規模帯に収まり、花王級の超大型株ではない。この点で、オアシスが実際に経営を動かしうる規模にあると言える。
加えて、インフォマートには180億円超の現預金と無借金に近い財務があり、自社株買いや増配の原資は十分すぎるほど揃っている。「動かせる規模」と「動かす余地」の両面で、オアシスの要求が実を結ぶ土壌は整っている。
オアシスは今後どう動くか|買い増しと撤退の可能性
過去事例と現在の状況を踏まえ、オアシスの今後の出方を予測する。焦点は、さらに買い増すのか、それとも撤退するのか、である。
さらなる買い増しの公算は高い
オアシスがさらに買い増す公算は高いと見る。
列挙した重要提案には代表取締役の選解任や非公開化までが含まれ、こうした議案を株主総会で通すにはより多くの議決権が要る。7.49%は圧力をかけるには十分でも、経営を動かすには足りない。DICの11.5%やフジテックの複数回の買い増しが示すとおり、決定的な提案の前段として持分を積み増すのが定石である。
変更報告書による保有比率のさらなる上昇は、むしろ既定路線に近い。次に注目すべきは、特設サイトの開設や臨時株主総会の請求といった、DICやフジテックで見られた公開キャンペーンの有無である。

2026.08.04補足
インフォマート<2492>株式の変更報告書を提出(保有増加)
オアシスのインフォマート保有比率は8.54%に。
撤退の可能性は現時点で低い
逆に、オアシスが「価値なし」と判断して撤退する可能性は現時点では低い。
撤退がありうるのは、株価が十分上昇して利益確定の誘惑が働く場合か、経営陣が要求を丸のみして目的を達した場合である。前者について、推定取得単価400円前後に対し現値569円の含み益は大きいが、非公開化まで視野に入れた提案を掲げる以上この程度で手仕舞う動機は乏しい。
後者について、会社はまだ具体的な資本政策を示さず要求は満たされていない。目的が未達である以上、いま引く理由がない。むしろ2Q決算で上方修正も追加還元も見送られたことは、圧力を強める根拠が増えたとも読める。撤退より次のアクションへ進む蓋然性が高い。
第一ライフグループ|アンカー株主の立ち位置
オアシスと並んで、インフォマートの資本構成を語るうえで無視できないのが第一生命の存在である。
第一ライフグループは資本業務提携により約15%を保有する筆頭級の株主であり、その出資単価435円はオアシスの推定取得単価400円前後に近い。この15%は、敵対的買収やプロキシファイトに対する経営陣の防壁(アンカー株主)として機能しうる。
一方で、機関投資家である第一生命にとっても企業価値の向上は至上命題であり、経営陣が資本効率を軽視すれば無条件で同調するとは限らない。オアシスは、この大株主の存在を熟知したうえで、自らの提案が既存機関投資家にも論理的に賛同されうるとの計算のもとに動いていると見るのが自然である。
第一生命がどちらに与するかは、今後の攻防を左右する重要な変数となる。
オアシスとインフォマート|現預金の使途が攻防の焦点
オアシスが是正を迫る資本効率の低さは、裏を返せば183億円の現預金の使い道を巡る攻防でもある。会社はこの資金を成長投資に振り向ける構えを見せており、その巧拙がオアシスの評価とも直結する。
ここでは決算期を挟んで進行した主な成長戦略を整理する。
スパイダープラス提携が建設の弱点を補う
本編で触れたとおり、ES事業内の建設向けサービス「TRADE」は中間期売上が+58.4%と最速で伸びている。この建設領域を外部から補強するのが、建設DXを牽引するスパイダープラス(証券コード:4192)との資本業務提携である。
TRADEに同社の図面・施工管理の知見を接続し、見積から請求までを一気通貫で結ぶことで、単体では築きにくい建設業界の商習慣への対応力を補う。2028年から2029年にかけて出資比率を高めるコールオプションも設定され、段階的に関係を深める設計だ。
建設をフードに次ぐ第二の柱へ育てる布石だが、効果が売上に表れるには時間を要する。
invox取り込みとデータ事業への布石
周辺領域の取り込みも進む。
2026年1月から経理向けAI-OCR技術を持つinvoxを追加取得し、持分法適用(持分33.4%)に含めた。請求書デジタル化に不可欠な読み取り技術の囲い込みである。
会社は年間約2.9兆円規模の取引データを活用したデータ事業への進化も打ち出し、6月末に食材流通の特設サイト、8月1日にAI経営分析システム「IMAgent」を投入した。
いずれも蓄積データを収益源へ転換する布石だが、収益貢献はこれからだ。持分法適用に伴う持分法投資損失78百万円は、投資フェーズの初期コストとして計上された。これらの投資が資本効率の改善に結びつくか否かが、オアシスの評価を左右する。
まとめ|オアシスの次の一手が株価を規定する
オアシスは1ヶ月で7.49%を握り、非公開化まで視野に入れた重要提案を突きつけた。過去事例に照らせば、インフォマートは株価が動いた中小型株の規模帯にあり、豊富な現預金という改善余地も揃う。買い増しは続く公算が高く、撤退の可能性は低い。
ただし過去の成功例が示すとおり、期待だけで上昇した株価は、特設サイトの開設や株主総会での議案可決など具体的なイベントが伴うまで脆弱である。7.49%から先、オアシスがどこまで議決権を積み増し、
いつ決定的な一手を打つか。そして第一生命がどう動くか。この攻防の帰趨が、インフォマートの株価を規定する。本編で述べたとおり、現在の株価に上乗せされたオアシス・プレミアムが正当化されるか剥落するかは、まさにこの一点にかかっている。











